大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 福井の方言
へしこ
私:島根県に旅行して「へしこ」のお茶漬けをいただいた。ところで福井県の三方五湖あたり、道の駅にも必ず「へしこ」があるね。「へしこ」は寧ろ、福井の食の代名詞といってもいい。
君:つまりは広域方言、然も日本海方言なのでは、とひらめいたのよね。
私:当たらずと言えども遠からず。それ以前の問題として、「へしこ」の語源は何かという問題。これが実は大問題だった。
君:あら、「へしこむ」という動詞の転というネット情報があったのでしょ。
私:確かに。但し、そのネット情報が正しいかは別問題。
君:ほほほ、当サイトとてネット情報よ。
私:結論から言おう。「へしこ」の語源は「ひしこ鯷・鯷魚」。「ひしこ」は魚「かたくちいわし片口鰯」の古名で季語は秋。和玉篇などの俳諧にもでてくる。江戸の滑稽本にも出てくる。以上は日国の抜粋。従って「へしこ」は動詞の転ではない。ネットの誤り情報であり、単なる民衆語源。「へしこ」は「ひしこ」の音韻変換、より具体的には母音の変換から生まれた言葉だ。「ひしこ」が江戸語にあるという事は、「ひしこ」は近世語以前の言葉。つまりは「へしこ」に音韻変換したのは近代、明治時代あたりだろうね。実は話をややしくするのは小学館・日本方言大辞典に「へしこむ圧込」という動詞の記載があり。こちらも古語。出典は古今著聞集20/696。従って、大目に見るとすれば魚「へしこ」の語源は古語動詞「へしこむ」であろうか、という推察は可能だろうが、こじつけに近いね。やはり当サイトとしては「へしこ」の語源は「かたくちいわし片口鰯」の古名から、と主張せざるを得ない。
君:そんな事はいいから、島根の「へしこ」と福井の「へしこ」の味の違いについて一言、どうぞ。
私:両方とも食べた佐七だからこそ言える、全く別の味です。
君:若しかして、魚の種類すら違うし、製法も違っていた、という事かしら。
私:早い話がそういう事。日本海側の各地に「へしこ」の料理はあるが、全て別物の可能性が高いと思う。言葉というものはそういうものだ。
君:でも「へしこ」という言葉には何か言霊(ことだま)のようなものがあるのじゃないかしらね。
私:その通り。方言には間違いないので、これこそおらが郷土料理、と主張するには持ってこいの言葉だと思う。
君:有坂・池上法則の観点からは「ひしこ」を貫くのも悪くはないわね。
私:いや、それはだめ。「ひしこ」の音韻は上品すぎて。やはり「へしこ」のほうが郷土料理らしいな。
君:いっその事、「へせけ」はどうかしら。
私:それもアウトでしょ。エキゾチック・ジャパンの響きになっちゃうんだよ。そもそもが日本語に存在しない音韻はアウトです。やはり、ある程度は日本語らしい響きじゃないとね。
君:有坂・池上法則の観点からは女性名「えいこ・けいこ」の音韻は「へしこ」の音韻と同じね。「へしこ」は明らかに日本語の音韻であるし、母音の三角形とも合致しているので、完成形の音韻というわけね。ほほほ