大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム ABAB型分布

かせる(=貸す)

戻る

私:共通語他サ五「かす貸」の事を飛騨方言では「かせる」とも言う。「かせる」は但しラ行下一段活用するので極めて特殊という事かね。
君:「かす貸」の古語・口語の関係では他サ四・他サ五なので、下一活用は奇異といえば奇異ね。飛騨方言では古語の下二から口語の下一になったのかしらね。
私:不明と言わざるを得ない。文語の他ラ下一の動詞の例としては、「蹴る」「答える」「寝る」だが、実は「蹴る」は江戸時代後期ころから四段活用化して現代語たる口語では他ラ五になっている。
君:前置きが長いわね。要は、「かせる」は全国共通方言であり、ABAB型分布をしているという事に気づいたのね。
私:その通りで、つい先ほど。国研地図・第70図として公開されている。かす(貸)の全国分布だ。
君:簡単に一言で説明してね。
私:全国的に「かす」の地域と思いきや、岐阜・愛知・静岡・長野・新潟にどかんと「かせる」の地方が広がっている。もうひとつは岡山・広島・鳥取・島根の地方が「かせる」の地方。東北・関東は「かす」、そして畿内・四国・九州あたりが、やはり「かす」。
君:「かす」は当然ながら文語では他サ四で、万葉集にもあるから(361、4032)、和語動詞よ。つまりは上代には全国的に「かす」という事で、上代に「かせる」は存在しなかったのじゃないかしら。
私:当然だね。後代に中部地方と中国地方のふたつで偶然にも「かせる」が生まれたという事じゃないかと思う。
君:だから「かす・かせる」はABAB型分布であるとの結論ね。
私:実は鹿児島と南西諸島が面白い。
君:どういう事?
私:同地図によると鹿児島全体で「かする」。南西諸島では「からすん」「からすぃ」「ふーしゅん」「こーすん」。
君:なるほど。薩摩方言「かする」は中部・中国方言「かせる」に音韻が似ていて同根ではないかと考えたのね。
私:その通り。実は「かせる(かする)」の分布はABABA分布というわけだ。
君:飛び地で同じ方言が存在するのは、理論として誰もが思いつくのが孤立発生論よね。
私:その通り。二つの地域で同じ発想でたまたま同じ言葉が生まれたのでは、という考え方。他には周圏論で説明される言葉もあるし、変わったところでは人の移動によって飛び火的に言葉が根付く事もある。方言学の研究者がやっきになって古文書にあたっておられる。「かせる」の場合は広範囲の地域で話されているので孤立発生論だと思う。ABAB型分布というのは佐七的にはいただけないね。かわりに「まだら分布」なんて学術語はどうでしょうか。
君:うーん、微妙。
私:ところで「~かす(サ行四段他動詞語尾)」という接尾語がある。これらの動詞の幾つかは「~かせる」に置き換えても飛騨方言のセンスに合うようだ。所謂、過剰修正 hypercorrection ってやつだね。例えば、「いごかせる・いのかせる(動かす)」とか。
君:内省のこわいところ、そんな変な言い方をするのは、佐七君、あなただけよ。 ほほほ

ページ先頭に戻る