大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム
ずつない(体が疲れる)
私:誰もが所有するもの、それは座右の書。手前に土田吉左衛門「飛騨のことば(1979)」がある。飛騨方言の辞書、語数は約一万。同書のみだしの一つに、「ずつない(苦しい、辛い、しんどい、気持ちが悪い)」がある。この語は全国の方言になっていて、その語源は「じゅつなし術無」。どんな古語辞典にも乗っている単語。
君:それがどうかしたのかしら。
私:土田先生はどういわけか、同書に、頭痛の活用形、とひと言、お書きになった。
君:それは佐七君もびっくりするわね。
私:おひとりでコツコツと飛騨方言を一万個もお集めになったのは称賛に値するが、所々に傑作な間違いが散見される。「じゅつなし術無」は体全般の不調を示す形容詞だから、頭痛がする、という意味でも使える形容詞だ。飛騨方言では中世語あたりで「ずつなし」になり、近代語で「ずつない」に音韻変化したのだろう。どうして蛇足的な説明があるのだろう、という疑問以前の問題で、名詞の活用形、ってどういう事ですか。活用しないのが名詞でしょ。「ずつない」の語根は頭痛かも、と記載しても学問的にはアウトです。
君:佐七君のこのサイトも間違いだらけの可能性があるわよ。
私:そうだね。最近は過去記事を少しは読み返している。たまにみつかるのがタイポ。
君:タイポとは。
私:typographical error 。英文の場合はソフトウエアが全文をチェックしてくれる。社会人になってからは WordStar にどれだけお世話になった事か。最近はあまつさえ文法の間違いですら正してくれる。
君:話が脱線しているわよ。
私:失礼、「飛騨のことば(1979)」が出版された10年後に小学館日本方言大辞典全三巻(徳川宗賢)が刊行された。語数はおよそ20万、方言に関するあらゆる出版物の内容を内包するので、当然ながら土田辞書も内包する。ただし方言大辞典には土田辞書の学問的誤謬は含まれていない。蛇足ながら方言大辞典はコンピュータ組版が導入され、方言学も本格的に情報学の学問になった。
君:阪大もなかなかやるわね。
私:いや、当時の日本人の方言学者様が全員関わっているね。
君:小学館日本方言大辞典も座右の書というわけね。
私:勿論だよ。読まない日は無いね。こんな面白い書は無い。
君:その書物が偉いのであって、それを読む佐七君が偉いわけじゃないのよ。
ほほほ