大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 語源学総論(民間語源)

がで

戻る

私:各論もいいが、総論を書くのも楽しいね。今日は民間語源のお話。
君:落語に出てくるお話ね。ヤカンの語源はヘルメット代わりにかぶっていたヤカンに敵の矢がカンと当たったからとか。
私:うん。ツルの語源は唐土から見知らぬ鳥がツーッと飛んできて松の木にルッと停止したからだとか。
君:今日の総論は飛騨方言「がで(分量)」についてね。
私:うん。今日の方言千一夜で問題としたいのは土田吉左衛門「飛騨のことば」にある、「がで(分量)」の語源は「かさ嵩」説について。
君:「がで(分量)」とは「かさ嵩」、お互いに2モーラの言葉だから、由来としては如何にも有りそうね。
私:土田吉左衛門「飛騨のことば」は飛騨方言の語彙が約一万という、唯一無二の飛騨方言に関する出版物で、本当に偉業だと思うが、誤謬が含まれて後世に批判されるのは学問の宿命だね。土田先生は故人であるし、今夜の記事が決して先生の名誉を傷つけるようなものではない事を国民の皆様にはご理解いただきたい。
君:いいから、結論をお願いね。
私:「かさ嵩」は共通語。皮肉なことに、飛騨方言では「ガサ」と、語頭が濁音化する事もある。先生が「ガサ」から「ガデ」が生まれたのでは、とお考えになったのは無理もない。
君:それで、どこがいけないのかしら。
私:彼が致命的な間違いを犯したのは、アクセント学の知識が無かった事。戦後間もなくの出版だからね。「かさ嵩」は尾高、従って「ガサ嵩」も尾高、ところが「ガデ」は平板なんだ。
君:アクセントの少しの違い程度は個人差じゃないのかしら。
私:いやいや、それは戦後に勃興した日本語アクセント学の全否定になるご意見だよ。学会並びに大御所・故金田一春彦先生に対して失礼という事でしょ。僕はこの点に関しては真っ先に気になっていて、「がで(分量)」の語源について約一年ほど、毎日のように考え続け、江戸語・つかひで「使ひ出」が飛騨方言「がで」の語源であろうという事に気づいた。気づいてしまえばどうって事ないが、それまでが大変だったという事。あらゆる辞典に目を通したが、おそらく数千ページ。
君:努力した事は認めるけれど、あなたの説が正しいかどうかはわかりにくいわよ。
私:わかる人にはわかるが、わからない人にはわからない。それが学問というものでございます。更には両語の語尾のモーラ「サ・デ」前者にはアクセント核があるわけだからね。その部分が音韻変化したのでは、という発想はお願いだからやめていただきたい。これもアクセント学の初歩なんだけれどなあ。
君:独りよがりのような気もするわ。
私:誰になんと言われても構わない。若し土田先生がご存命ならば、三十分程度の講義をしてご自身の間違いに気づいていただきたい気分。
君:セルバンテスの見果てぬ夢というわけね。 ほほほ

ページ先頭に戻る